決壊

決壊 上巻

決壊 上巻

決壊 下巻

決壊 下巻

決壊
平野 啓一郎 (著)


人間は、決して完結しない、輪郭のほどけた情報の束だよ。生きている以上、常に俺の情報は増え続けるし、色んな場所、色んな時間に偏在する俺という人間の情報を、すべて把握するなんて、土台、出来るはずがない!

初めて人と会う。その瞬間から、双方の人格は政治化される。コミュニケーションの中で、相手が俺をどう思うか、俺が相手をどう思うか。それは、フェアな合意形成の道筋を辿らないよ。絶対に、ね。(作中引用)

忙しさにかまけてしばらく鞄の中に入れていて、この重さですっかり新しい仕事ケースのポケットが本の形に鋳型されていく姿を不当に思ってなんとか上巻を読み進めていたら、下巻はあっという間だった。

突然奪われた家族の生、その不在感を、やがて消え行く記憶の過程を、コツコツと書き連ねる部分はとても興味深かった。

このように生真面目な文章というか、細部に忠実な表現というのか、ミステリー的な表現をとっているからこそ際立つ純文学系の「感覚的に語りえない部分」について触れていく手さばきに圧倒された。