都市へ仕掛ける建築 ディーナー&ディーナーの試み

k-michi2009-03-02

都市へ仕掛ける建築 ディーナー&ディーナーの試み

The House and the City: Architecture by Diener & Diener
2009年1月17日[土]─ 3月22日[日]
東京オペラシティアートギャラリー(3F ギャラリー1・2)

ハンドブックが渡された。どのように建つかという、周辺との調和をスタディしたスケールの小さい模型ばかりが並ぶ。全て木製であるために、ボリューム感しか分からない中で来場者はプロジェクトを理解するよう、強いられているようだ。建物のデザインを見せるというよりは、窓から見える風景を感じ取れとばかりに、2m角程度の大きな写真が壁面へ並ぶ。

次の部屋には、配置計画やディテールが印象的でCGなどのビジュアル面が少ないポートフォリオが並ぶ。カーテンでゆるく仕切った映像ブースには、ヘッドホンが3台しかない画面と、スライドショーがある。インタビュー映像では、自らの建築を匿名的と言っていた。最後にはサンプルを並べた実務的な一角。とてもストイックな建築展だった。

じっくりと見れば分かるだろうし、入りこまないと物足りない展示だ。それはまるで彼らのデザイン姿勢そのもののようだ。スイス建築にはシンプルなボックス型というイメージが強く、あまり派手なスペクタクル(フランク・ゲーリーみたく)は存在しない場所であって、ヨーロッパの中でも保守的な印象が強い。彼らの作る建築もその方向にあると思う。

例えば時計など、次々と新型を造り需要を喚起する日本製、長年の使用でも飽きのこないデザインであるスイス製、そんな比較が思い浮かぶ。大量生産を追及し、薄利多売を得意とする企業が目立つ日本からみれば、1点モノを時間掛けてつくり続ける需要が残るスイスのような国は停滞しているようにも見える。しかし国民一人当たりのGDPは日本を上回る。どちらが豊かさを享受しているかといえば明白ではないか。

建築においても、一見すると東京に乱立する超高層や商業施設は、派手な意匠で流行を追い求める多様さに満ちている。しかし施工精度こそ良いが、安価な工業製品で囲まれ刹那的に存在する建物も多い。土地に対して建物があるべく与件の比重として、利回りをよくする底コストの意思が大きいのだ。何百年もの歴史をもつ建物と並列し違和感なくデザインを努める文化をベースにしながら、石油製品ばかりで作る建築は少ないだろう。

一方でスイス時計にSwatchがあるように、建築においてもヘルツォーグ・アンド・ド・ムロンがいて、世界の建築潮流をリードする先端を走る。保守的な文化だけでなく、大胆に個性を追い求める風土がある。これがヨーロッパの面白い所ではないか。しかしこれらを支える文化的土壌、都市計画や政治の差異を感じる度にユートピア的な眼差しとなってしまう。

結局のところスイスについて、そしてヨーロッパについて自分は何も分かっていないのだと思う。同盟国のイギリスを除けば、アメリカ型経済の敗北にたいしてユーロはまだ持ちこたえている。日本もかつてはヨーロッパを手本に街づくりを学んだ。伝統に縛られた頑固な面ばかりでなく、状況に応じたラディカルな発想を実践している思考やシステム。そんな面だけでは分からない彼らについて、建築の作り方だけでなく、もっと広く知りたい。